最終更新日 2025年7月7日
仮差押とは金銭債権の保全のために、債権者が裁判所に申し立てて債務者の財産の処分に一定の制限をかけることを指します。
そもそも債権者が債務者に対して金銭消費貸借や未払いの売掛金などが存在する場合に、任意の債務者の履行を期待出来ないことがあります。
平たく言えば経営状態が悪化していたり、借金で首が回らないなどの状況が典型です。
債権者としては金銭を債務者から自発的に回収することが難しい、あるいは返済にまわせる現金を工面できないなどの状況が明らかであれば、裁判所に民事訴訟を提起して勝訴判決を確定させることが必要になります。
債務者に支払を命じる内容の判決をもとに、最終的には強制執行をかけて債務者の財産を換金したり取り立てるなどして債権回収を図るのが原則です。
仮差押の目的
しかし御承知のとおり裁判手続きは時間がかかるだけでなく、争いになれば証拠にもとづいて自分の主張を展開し裁判所に納得してもらうという手間もかかります。
仮に債務者に不動産や預金など、めぼしい財産があるのを知っているのに裁判所に訴訟提起して判決が確定するまでの間に、債務者が第三者に譲渡してしまったり自ら費消してしまう可能性があります。
このように将来の債権回収が怪しいとの見込みがあるときに、仮差押をかけておくことで自らの金銭債権回収の道を確保しておくというわけです。
仮差押の事例
具体的事例をもとに、さらに分かりやすく解説してみましょう。
ある債権者は100万円の金銭債権を保有していると仮定します。
債務者には自宅以外に預金や現金などめぼしい財産は持っていない状況です。
すでに数社からの借り入れがあり、そろそろ延滞するそうな気配。
このようなときに債権者としては、債務者の自宅と底地の不動産に仮差押の登記をつけます。
裁判所に金銭債権の存在を証明する契約書などを証拠として提出して、申し立てると裁判所書記官からの食卓によりこの登記は完了するわけです。
この場合債務者としては第三者に自宅を売却することは可能です。
しかし第三者は債権者から仮差押の登記を根拠に、優先的地位を主張されると自らの所有権取得を主張すること(対抗する、とも言います)はできません。
結果的に第三者は所有権を喪失することになるわけですが、第三者としては債務者に対して損害賠償を請求して自ら被った損害の回復をはかることになるわけです。
このようなリスクの高い不動産を購入しようとする人間は普通はいないはずです。
このように事実上債務者の財産処分を制限することで、結果的に債権者の金銭債権を保全するという法的効果は担保されています。
仮差押登記について
ところで仮差押登記をするということは、債権者と債務者の間に将来的に訴訟提起の気配は存在するからこそです。
仮に円滑に借金を返済するなど債権の満足が図られた場合は、債権者は領収書などを裁判所に提出して抹消登記をしてもらう手続きをとることで最終的にすべての手続きが完了することになります。
それでは借金を回収して債権も無事満足を図れたにもかかわらず、登記簿をそのまま放置していたらどのような事態に直面することになるのでしょうか。
必要性の無くなった登記をそのまま放置するなんてありえるのか、と考える方もいるかもしれません。
しかし債権者としては警告の意味で登記を裁判所に申し立てただけで、無事金銭債権を回収できればそのまま関心を喪失してしまい、長期間にわたり放置されるという事態はありえる話です。
仮に債権者や債務者のいずれか、もしくは両方がなくなってしまったりすると事態は錯綜を極めることになります。
仮に相続人がくだんの不動産を第三者に売却したいと考えた場合、そのままの状態ではまず買い手は付きません。
先ほど解説したように購入して所有権移転登記も完了したのはいいが、後日自らの所有権取得がひっくり返るような不動産はとても手が出せる代物ではないからです。
仮差押登記の抹消手続きの方法
このような状況を打破するには、いくつものステップを踏んで解決に向けて努力するほかありません。
まず債務者、つまり不動産の所有者が死亡しているのであれば相続登記を完了させることが前提になります。
相続人の数が増えるほど承諾を得るべき関係者は増えていくので相続登記は可能な限り早急に済ませることが必要です。
そしていよいよ仮差押登記の抹消手続きに入るわけですが、方法は3つあります。
まず元の債権者が裁判所に抹消を申し立てるという方法があります。
ただしこの方法は元の債権者の任意の強力が前提です。
債権者の協力を得ることが難しいのであれば債務者側で抹消の申し立てをする方法があります。
しかしこの手段も昔の領収書などを探しだすことが前提です。
まとめ
最後に債務者側から本訴訟の提起させることを申し立て、債権者側が本訴訟を提起しないことを理由に抹消を申し立てる裁判をおこすという最後の手段があります。
いずれにせよ抹消を申し立てると裁判所で期日が開催されるので、申し立てた側は裁判所に足を運ぶという手間も出てきます。
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